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この記事では、この新事業進出補助金の基本から、補助金を使って実際にどのような宿泊施設を建築できるのか、そして補助金を受けるためのポイントまで、実務の視点で分かりやすく解説します。
新事業進出補助金とは?「宿泊業への第一歩」を応援する
新事業進出補助金の目的
「中小企業新事業進出促進補助金(以下、新事業進出補助金)」は、中小企業等が行う、既存事業と異なる事業への前向きな挑戦であって、新市場・高付加価値事業への進出を後押しすることで、中小企業等が企業規模の拡大・付加価値向上を通じた生産性向上を図り、賃上げにつなげていくことを目的としています。
令和7年度から開始された中小企業支援策
本補助金は、令和7年から開始された制度です。令和7年度当初予算において、中小企業庁は本事業を含む「中小企業等新事業進出促進事業」として、400億円を計上しています。現在は「第3回公募」が実施されており、公募期間は令和7年12月23日から令和8年3月26日までとなっています 。
宿泊業への進出は本補助金の趣旨に合致
本補助金が求める「新事業進出」とは、自社にとって「製品等の新規性」と「市場の新規性」の両方を満たす取り組みを指します 。
例えば、これまで飲食業や製造業を営んでいた事業者が、その強みを活かして新たに「宿泊業」という異なる業種へ参入することは、既存の顧客層やサービスとは異なる「新たなニーズを持つ顧客層」を対象とする市場への進出となるため、本補助金の対象となり得る有力なケースです 。
多額の初期投資を支える公的支援
宿泊業の開始には、建物の建築やリノベーション、各種設備の導入など、多額の初期投資が必要となります。本補助金を活用すれば、事業計画の規模に応じて最大7,000万円(賃上げ特例適用時は最大9,000万円)の支援を受けることが可能です 。
多額の資金を必要とする「異業種からの宿泊業参入」において、この制度は経営リスクを抑えつつ、高付加価値な事業を構築するための重要な財政的基盤となります。
あなたの会社も対象?「補助対象者」の条件を確認
本補助金に申請するためには、まず「中小企業者」である必要があります 。宿泊業(旅館業)への進出を検討する場合、以下の基準のいずれかを満たしているか確認してください。
中小企業の定義(製造業の場合)
- 資本金の額:3億円以下
- 常勤の従業員数:300人以下
上記いずれかを満たしていれば対象となります。なお、業種によって基準が異なりますので、詳しくは公募要領を確認してください。
申請に必要な実績
本補助金は「既存事業を持つ事業者」の新たな挑戦を支援するものです。
• 日本国内に本社及び補助事業実施場所を有すること
• 創業後1年以上に満たない事業者は対象外(最低1期分の決算書の提出が必要)
• 応募申請時点で従業員数が0名の事業者は対象外
いくらもらえる?補助金額と「1/2補助」のルール
投資規模を検討する上で、補助金の上限額と補助率、そして「資金計画」の仕組みを正確に理解しておくことが重要です。
補助率と補助金額
- 補助率:1/2
- 補助金額:従業員数に応じて、以下のように上限額が設定されています
| 従業員数(常勤) | 補助金額の上限(カッコ内は賃上げ特例適用時) |
| 20人以下 | 750万円~2,500万円(3,000万円) |
| 21人~50人 | 750万円~4,000万円(5,000万円) |
| 51人~100人 | 750万円~5,500万円(7,000万円) |
| 101人以上 | 750万円~7000万円(9,000万円) |
上限がさらに上乗せされる「賃上げ特例」
今回の公募では、給与支給総額の年平均成長率を大幅に引き上げる等の要件を満たすことで、補助上限額に 最大2,000万円 が上乗せされます。宿泊業は人手不足が課題ですが、高付加価値なモデルを構築し、賃上げを達成する計画を立てることで、より手厚い支援を受けることが可能になります 。
重要:金融機関との事前相談と資金計画
宿泊業への進出は、建物の建設や改修等で多額の初期資金を必要とします。本補助金を活用するにあたっては、以下の実務的な「資金計画」が必須となります。
- 金融機関による事業計画の確認: 補助事業の実施にあたって金融機関等から資金提供(融資等)を受ける場合は、資金提供元の金融機関等から事業計画の確認を受け、「金融機関による確認書」を提出する必要があります 。
- 補助金は「後払い」: 補助金は、原則として補助事業実施期間終了後の精算払いとなります。そのため、事業開始から入金までの期間(最大14〜16か月程度)の支払いについては、自己資金や金融機関からの融資等で賄わなければなりません。
採択率を高め、かつ確実に事業を遂行するためには、申請前の段階から早めに金融機関へ相談し、融資の裏付けを含めた精緻な資金計画を立てておくことが成功の鍵となります。
何に使える?宿泊施設づくりで認められる「経費」の例
新事業進出補助金では、事業の核となる資産形成に重きが置かれています。そのため、「建物費」または「機械装置・システム構築費」のいずれかが必ず補助対象経費に含まれていなければなりません 。宿泊業参入にあたって、一般的に認められる経費の区分は以下の通りです。
建物費
宿泊施設の「器」となる部分にかかる費用です。
- 建物の建設・改修: 客室の建築、エントランスや共用部のリノベーション工事費、空調や給排水の設備工事等
- 建物の撤去: 改修や新築の前提となる既存建物の解体費用(※単独での申請は不可)
- 注意点: 土地や建物の単なる「購入」、「賃貸料」は対象外です
機械装置・システム構築費
最新のホテル運営に不可欠な設備やIT投資です。
- 機械装置: 調理設備、ランドリー設備、サウナ等の温浴設備など。
- システム構築: 予約管理システム(PMS)、スマートチェックイン機、自社専用の予約アプリ開発など 7。
- 注意点: 事務用のパソコンやスマートフォン、一般的な家具・家電などは汎用性が高いため、補助対象外となります
広告宣伝・販売促進費
新しく始める宿泊施設を広く認知させ、予約を獲得するための費用です
- ウェブサイト構築: 施設の公式サイト制作(多言語対応含む)
- プロモーション: 魅力的な施設写真の撮影、PR動画の制作、パンフレット作成
- 展示会・媒体掲載: 国内外の旅行博への出展、WEB媒体への広告掲載
- 注意点:予約サイトへの手数料等、開業後にかかる経費は補助対象外となります
その他の支援経費
- 専門家経費: 宿泊業のコンセプト立案やオペレーション指導を受けるコンサルティング費用(上限100万円)
- 外注費: 施設の設計や検査、一部の業務委託費(※企画全体の外注は不可)
本補助金は「持続的な競争力強化」を目的としているため、一過性の広告費が大半を占めるような計画は認められません 。まずは、宿泊施設のコンセプトを象徴する「建物(内装・建築)」や、生産性を高める「システム」への投資を主軸に据え、それらを補完する形で広告宣伝費を組み合わせるのが、採択を引き寄せる健全な事業計画の形です。
【事例紹介】新事業進出補助金を使った宿泊業開業パターン
本補助金は、既存事業と異なる「製品(サービス)の新規性」と「市場の新規性」が求められます。異業種から宿泊業へ参入する場合、この要件を満たしやすいため、以下のような投資が可能です。
事例1:自社所有地を活用し「2棟のプライベートヴィラ」を新築
既存事業(例:製造業)で保有する遊休地や、新たに取得した土地に独立型ヴィラを建設するケースです。
- 事業内容: 2棟限定のプライベートヴィラ運営。地域の自然を活かした高単価な宿泊体験を提供。
- 主な補助対象経費: 建物建設費、外構工事費、スマートチェックインシステム構築費、公式サイト制作費
- シミュレーション:
- 総事業費:6,000万円
- 補助対象経費:5,000万円(建物やシステム等)
- 補助金受取額:2,500万円(補助率1/2、従業員20人以下のケース)
- 期待売上:3,000万円~4,000万円
- 期待利益:1,500万円~2,500万円
- 投資回収(補助金給付後):1.4年~2.3年
【事例1】弊社が運営する同タイプのプライベートヴィラ(コンテナタイプ)





事例2:老舗温泉旅館をM&A「高付加価値リノベーション」で再生
後継者不在の老舗旅館をM&A(事業承継)で引き継ぎ、現代のニーズに合わせた露天風呂付き客室などへ大規模改修するケースです。
- 事業内容: 古い旅館の良さを残しつつ、客室単価を大幅に引き上げるリブランディング。
- 主な補助対象経費: 客室・共用部の改修(建物費)、厨房設備の刷新(機械装置費)、ブランドロゴ・動画制作(広告宣伝費)
- シミュレーション:
- 総事業費:1億8,700万円
- 補助対象経費:8,000万円
- 補助金受取額:4,000万円(補助率1/2、従業員21〜50人のケース)
- 期待売上:1億円~1億5,000万円
- 期待利益:5,000万円~8,000万円
- 投資回収(補助金給付後):1.8年~2.9年
承継前の事業者が既に実施していた内容を単に引き継ぐだけでは認められないため、自社独自の「新機軸」を打ち出す必要があります 。併せて検討すべき他補助金: M&Aを伴う場合、本補助金以外に「事業承継・M&A補助金」の受給も検討可能です。
【事例2】弊社が運営する同タイプの旅館リノベーション







事例3:オフィスビルやマンションを「インバウンドホテル」へ転用
需要が低下した都市部の賃貸ビルやマンションを、1棟丸ごと客室数40室のホテルにリノベーションするコンバージョン(用途変更)のケースです。
- 事業内容: 既存ストックを活かし、非対面・省人化運営を軸としたインバウンド特化型ホテル。
- 主な補助対象経費: 内装コンバージョン工事費、用途変更に伴う設備工事、PMS(予約管理システム)導入
- シミュレーション:
- 総事業費:2億5,000万円
- 補助対象経費:1億1,000万円
- 補助金受取額:5,500万円(補助率1/2、従業員51〜100人のケース)
- 期待売上:2億円~3億円
- 期待利益:5,000万円~8,000円
- 投資回収(補助金給付後):2.4年~3.9年
不動産賃貸(実質的な労働を伴わないもの)は対象外ですが、自ら運営主となって宿泊サービスを提供する「事業」であれば対象となります 。
【事例3】弊社が運営する同タイプのホテルリノベーション






いずれのパターンでも、事業計画期間内(3〜5年)に付加価値額を年平均4.0%以上成長させ、従業員の賃上げを行うことが必須要件となります。単なる箱作りではなく、「稼ぐ力」と「働く人への還元」がセットになった計画が採択の分かれ目となります 。
採択のために知っておきたい「審査のポイント」
「新事業進出補助金」は、申請すれば誰もが受給できるわけではありません。決められた期間内に、必要な書類と事業計画書を提出し、外部有識者による審査を経て「採択」される必要があります。
公募の回数とチャンス
本補助金は、年間を通じて数回のチャンスがあります。
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- 令和7年度の実績: 年間で合計3回の公募が実施されました。
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- 令和8年度の見通し: 前年度と同様の回数で公募が行われる可能性が高いと考えられます。
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- 現時点(2026年1月)の募集状況: 令和7年12月23日から「第3回公募」が開始されています。
採択率(合格率)の目安
気になる採択率ですが、これまでの傾向から毎回35%前後となっています。
およそ3社に1社が選ばれる計算です。決して「出せば通る」ほど容易ではありませんが、公募要領に沿ってロジカルな計画を立てれば、十分に狙える数字です。
申請に必要な準備
以下の書類を揃え、電子申請システム(GビズID)からオンラインで申請を行います。
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- 事業計画書: 今回の宿泊事業の具体策、将来性、収支見込みなどをまとめた書類
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- 決算書: 直近2年分(損益計算書・貸借対照表など)
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- 労働者名簿: 現在の従業員数を示す書類
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- 確定申告書の控え: 現在事業を行っていることを証明する書類等
審査で見られる「3つの基本ポイント」
審査では、主に以下の3つの視点から御社の事業計画が評価されます。
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- 新しさ(新規性): 既存の本業とは明確に異なる「新しい挑戦」であるか。
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- 稼ぐ力(実現可能性): 宿泊施設として収益を上げ、継続していける具体的な根拠があるか
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- 社会への還元(政策面): 賃上げを行い、地域経済の活性化に貢献できるか
「35%」という数字を聞いて不安になるかもしれませんが、裏を返せば、公募要領のルールを無視した不備のある申請も多く含まれています。特に「今の本業と宿泊業がどう違うのか」という点を、客観的なデータを用いて丁寧に説明することで、採択の確率は大きく向上します。
申請から受給まで。失敗しないためのスケジュール
新事業進出補助金は、事業計画書の作成以外にも、事前のシステム登録や公的な届出が必須となります。これらには一定の「準備期間」が必要なため、公募締切の数週間前には着手しておく必要があります。
申請に必須となる3つの事前準備
申請手続きを完結させるためには、以下の3点について余裕を持って準備してください。
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- GビズIDプライムアカウントの取得(所要期間:約1週間)
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- 本補助金の申請は電子申請システムのみで行われます 。
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- ログインには「GビズIDプライム」アカウントが必須です。未取得の場合は速やかに利用登録を行ってください。
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- GビズIDプライムアカウントの取得(所要期間:約1週間)
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- 一般事業主行動計画の策定・公表(所要期間:約1〜2週間)
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- 次世代育成支援対策推進法に基づき、仕事と家庭の両立を支援するための「一般事業主行動計画」を策定し、情報サイト「両立支援のひろば」で公表していることが要件です
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- サイトへの公表反映には1〜2週間程度の期間を要するため、2週間以上の余裕を持って公表申請を行ってください。
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- 一般事業主行動計画の策定・公表(所要期間:約1〜2週間)
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- 金融機関による事業計画の確認書(事前相談必須)
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- 補助事業の実施にあたって金融機関等から融資等の資金提供を受ける場合は、資金提供元の金融機関から事業計画の確認を受け、「金融機関による確認書」を提出しなければなりません
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- 自己資金のみで実施する場合を除き、金融機関への事前説明と事業内容の合意が必要となるため、早めの相談が不可欠です。
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- 金融機関による事業計画の確認書(事前相談必須)
第3回公募締切と審査スケジュール
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- 公募締切: 令和8年3月26日(木)18:00(厳守)
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- 口頭審査: 一定の基準を満たした事業者に対し、オンラインで実施されます
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- 採択発表: 令和8年6月頃(予定)
採択から受給までの流れ
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- 交付申請: 採択発表日から原則2か月以内に実施し、経費の精査を経て「交付決定」を受けます
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- 補助事業実施期間: 交付決定日から14か月以内(採択発表日から16か月以内)にすべての支払を完了させます
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- 実績報告と確定検査: 事業完了後、証憑類の提出と実地検査を経て補助金額が確定します
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- 補助金入金(精算払い): 確定した金額が後払いで入金されます
「一般事業主行動計画」の公表は、手続きの遅れによる申請期限の延長は一切認められません 。銀行の確認書についても、ギリギリの持ち込みでは審査が間に合わないリスクがあります。事業計画の「中身」を詰めると同時に、これらの「器」となる手続きを最短で進めることが、確実な申請への近道です。
成功の鍵は「実務を見据えた早期の準備」
新事業進出補助金は、異業種から宿泊業への参入を目指す企業にとって、かつてないほど強力な財政的支援となります。しかし、これまで解説してきた通り、本補助金の採択を勝ち取るためには、単なる「箱作り」の計画ではなく、緻密な収益計画、賃上げへのコミットメント、そして公募要領に基づいた厳格な手続きが求められます。
特に、金融機関との調整や事業計画の策定には、一定の物理的な時間が必要です。公募締切間際での着手では、これらの要件を満たせず、申請そのものを断念せざるを得ないケースも少なくありません。
マリントピアリゾートグループは、全国で自ら多種多様な宿泊施設を直営し、現場運営の最前線で培った豊富なノウハウを有しています。加えて、自社、支援先企業含めて総額20億円を超える補助金交付を受けてきた実績があります。
私たちは、実務に裏打ちされた経営戦略と、膨大な採択実績に基づく「採択確度の高い事業計画」の策定を支援いたします。異業種参入という大きな決断を、確かな成功へと繋げるために、ぜひお早めにご相談ください。お問い合わせフォームより、お気軽にお声掛けください。



