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宿泊業界における人手不足は、もはや「採用」だけでは解決できない段階にあります。現場に求められているのは、デジタル技術による業務の抜本的な効率化。 本記事では、最大1億円の支援が受けられる『中小企業省力化投資補助金(一般型)』について、宿泊事業者が押さえるべき重要ポイントを解説します。
【制度理解】中小企業省力化投資補助金(一般型)の全体像
「一般型」は、カタログから既製品を選ぶ「中小企業省力化投資補助金(カタログ型)」と異なり、宿泊施設ごとの現場に合わせた柔軟な設備導入が可能です。まずは、申請の土台となる基本ルールを確認しましょう。
事業の目的
人手不足に苦しむ中小企業が、「省力化投資」を行うことで、労働生産性を向上させ、持続的な賃上げを実現することを目的としています。
「一般型」とは
宿泊現場の設備や既存システムに合わせて開発・改修を行う「オーダーメイド設備」や、複数の汎用設備を組み合わせて高い省力化効果を生む投資を指します。
補助対象となる事業
単一または複数の工程を自動化し、人手不足を解消する事業が対象です。宿泊業では「フロントの無人化」「清掃の自動化」「調理の省人化」などが代表例です。
補助事業要件
以下の要件を全て満たす3~5年の事業計画を策定することとします。
- 労働生産性の年平均成長率+4.0%以上増加
- 1人当たり給与支給総額の年平均成長率を3.5%以上増加
- 事業場内最低賃金が事業実施都道府県における最低賃金+30円以上の水準
返還義務
賃上げ目標や生産性目標が正当な理由なく未達となった場合、補助金の一部返還を求められることがあります。
補助対象外となる事業
- 単なる「古い機材の買い替え」。
- 汎用性が高いPC、スマホ、家具、家電などの購入。
- 送迎バスなどの車両
従業員数で決まる補助上限額(最大1億円)
「中小企業省力化投資補助金(一般型)」の特徴は、その支援規模にあります。宿泊業は他業種に比べ従業員数が多い傾向にあり、多くの施設が数千万の補助枠を狙えるポジションにあります。
従業員数別の補助上限額
補助金の上限額は、申請時点の「常勤従業員数」によって以下の5段階に分類されます。さらに、大幅な賃上げを行う場合には上限額が引き上げられます。
| 常勤従業員数 | 補助上限額(通常) | 賃上げ要件達成時 |
| 5人以下 | 750万円 | 1,000万円 |
| 6〜20人 | 1,500万円 | 2,000万円 |
| 21〜50人 | 3,000万円 | 4,000万円 |
| 51〜100人 | 5,000万円 | 6,500万円 |
| 101人以上 | 8,000万円 | 1億円 |
ここで言う「常勤従業員」とは「雇用保険の被保険者」を指しており、雇用保険未加入の学生アルバイトや役員、後期高齢者は常勤従業員にカウントされません。
補助率と最低投資額
- 補助率: 補助対象経費の 1/2以内 となっています。
- 最低投資額: 補助金額の算定基礎となる補助対象経費の総額が 100万円以上 である必要があります(100万円未満は対象外)
賃上げによる上限引き上げの条件
上表の()内の上限額を適用するためには、以下の要件をすべて満たす計画を策定・表明する必要があります。
- 給与支給総額: 年平均成長率 6.0%以上 の増加。
- 事業場内最低賃金: 地域別最低賃金より +45円以上 の水準を維持すること。
多くのホテルや旅館が該当する「従業員数21人〜50人」規模の施設であれば、通常でも3,000万円、賃上げを合わせれば4,000万円という、新築リノベーションに匹敵する予算を「省力化設備・システム」だけに投入できます。
これにより、単なるロボット導入に留まらず、基幹システム(PMS)の全面刷新や、全客室へのスマートロック導入といった、施設全体の「OS」を入れ替えるような大規模なDXが可能になります。
【実践】宿泊業「補助対象・対象外」の具体的ケース
中小企業省力化投資補助金(一般型)では、単なる機械の購入費用だけでなく、既存システムとの連動や独自のソフトウェア開発といった「システム構築費」が補助対象の大きな柱となります。
宿泊事業者が「補助対象」となる省力化プロジェクト例
宿泊施設で想定される大規模省力化プロジェクトを例に、具体的な金額イメージを整理します。
事例①:全館スマートロック&自社PMS完全連動システム
フロントの完全非対面化を目指し、客室の鍵管理と予約システムを統合するケースです。
| 見積項目 | 経費区分 | 金額(例) | 補助対象の可否 |
| スマートロック端末(100部屋分) | 機械装置費 | 1,000万円 | 可:省力化に直結する汎用設備 |
| 既存PMS連携API・独自アプリ開発 | システム構築費 | 1,500万円 | 可:一般型ならではのメイン経費 |
| 自動精算機・キオスク端末(3台) | 機械装置費 | 750万円 | 可:チェックイン工程の自動化 |
| 全客室への取付・設定・配線工事 | 設置費 | 500万円 | 可:導入に不可欠な付随工事 |
| 保守・運用サポート(年次契約) | - | 200万円 | 不可:経常的な運用費は対象外 |
| 合計(補助対象額) | 3,750万円 | 補助金:1,875万円(1/2) |
事例②:大型旅館の「清掃・配膳ロボット集中管理ライン」
複数のフロアや宴会場を持つ大規模施設で、ロボットを一括制御して省人化を図るケースです。
| 見積項目 | 経費区分 | 金額(例) | 補助対象の可否 |
| 業務用清掃ロボット(10台) | 機械装置費 | 2,000万円 | 可:複数の汎用設備の組み合わせ |
| 配膳・運搬ロボット(5台) | 機械装置費 | 1,000万円 | 可:複数工程の同時自動化 |
| ロボット一括管理・走行制御ソフト | システム構築費 | 800万円 | 可:現場に合わせた独自システム構築 |
| エレベーター連携ユニット改造費 | 設置費 | 200万円 | 可:ロボットのフロア移動に必要 |
| オペレーション教育用セミナー費 | - | 50万円 | 不可:教育・研修費は対象外 |
| 合計(補助対象額) | 4,000万円 | 補助金:2,000万円(1/2) |
事例③:厨房の「DX自動調理&衛生管理ライン」
調理スタッフの不足を、ICTを活用した最新の自動調理設備でカバーするケースです。
| 見積項目 | 経費区分 | 金額(例) | 補助対象の可否 |
| 自動調理ロボット(万能機×3台) | 機械装置費 | 2,100万円 | 可:生産工程を自動化する設備 |
| 独自レシピデータ&HACCP管理ソフト | システム構築費 | 500万円 | 可:専用システムの初期構築 |
| 給排水・排気ダクト等、特殊据付工事 | 設置費 | 400万円 | 可:機械の稼働に必要な設置工事 |
| 厨房管理用ノートPC(汎用品) | - | 20万円 | 不可:汎用PCは補助対象外 |
| 合計(補助対象額) | 3,000万円 | 補助金:1,500万円(1/2) |
事例④:完全非対面を実現する「生体認証(顔認証)一括管理システム」
フロントでの鍵の受け渡しを完全に撤廃し、チェックインから客室解錠、館内決済までを「顔パス」で統合する、次世代型ホテルの構築ケースです。
| 見積項目 | 経費区分 | 金額(例) | 補助対象の可否 |
| 顔認証カメラ付端末(全客室・玄関) | 機械装置費 | 2,500万円 | 可:省力化を可能にする専用デバイス |
| 生体認証データ・PMS統合システム開発 | システム構築費 | 1,500万円 | 可:一般型ならではの高度なソフト構築 |
| 各所電気錠・ネットワーク配線工事 | 設置費 | 500万円 | 可:システムの稼働に必須の工事 |
| 合計(補助対象額) | 4,500万円 | 補助金:2,250万円(1/2) |
事例⑤:館内物流オートメーション「自動搬送ロボット&エレベーター連携」
リネン類の回収やアメニティの補充、客室への備品配送を、ロボットがエレベーターと連携して自動で行う「館内物流」の自動化ケースです。
| 見積項目 | 経費区分 | 金額(例) | 補助対象の可否 |
| 自律走行型搬送ロボット(5台) | 機械装置費 | 1,500万円 | 可:物流工程を自動化する設備 |
| エレベーター自動呼出・連動ユニット | 機械装置費 | 500万円 | 可:ロボット移動に必要な付随設備 |
| 館内地図生成・ルート最適化制御ソフト | システム構築費 | 800万円 | 可:施設環境に合わせた独自カスタマイズ |
| 合計(補助対象額) | 2,800万円 | 補助金:1,400万円(1/2) |
上記の見積項目と金額は、あくまで参考例であり、詳細はベンダーやコンサルティング会社との打ち合わせになります。
注意すべき「補助対象外」の経費
高額な投資になるほど、補助対象外となる「汎用品」や「運用費」の仕分けが重要になります。
- 汎用端末: 事務用PC、清掃員が持ち歩く一般のタブレット、スタッフ用スマホなどは対象外。
- 建物の改修: ロビーの改装や、省力化に関係のない客室のクロス張り替え、防水工事などの「建物費」は対象外。
- 維持経費: 導入後の月額ライセンス料や保守点検費用。
「一般型」の申請では、見積書が非常に重要です。事例①のように、「機械(ハード)」と「システム開発(ソフト)」を適切に組み合わせることで、数千万円規模の投資に対する補助額を最大化できます。
事例④や⑤のような投資は、人件費削減(省力化)だけでなく、「顧客体験の向上(付加価値向上)」にも直結、ホテルの差別化にもつながります。
一般型の審査では、「どれだけ労働時間が減るか」という定量的評価に加え、このように「新しい宿泊の形を提案しているか」という定性的側面も、事業計画の説得力を高める重要な要素になります。
また、ベンダーには必ず「補助事業の要件に合致する明細」を作成してもらうよう、あらかじめ指示を出しておくことが採択への近道です。
【まとめ】採択までの実務ロードマップ
「一般型」は、カタログ型と異なり審査(採択)から補助金受給までの工程が複雑です。宿泊事業者が最短・確実に受給するための流れを整理します。
申請から受給までの4つのステップ
公募要領「事業の流れ」に基づき、宿泊業の現場スケジュールに置き換えます。
【準備・応募】(今すぐ開始)
o GビズIDを取得し、ベンダーと「省力化効果」の数値根拠(時間削減など)を固めた事業計画書を作成し、電子申請します。
o 詳細スケジュールは未定ですが、第5回の一般型公募は2月下旬締切予定です。
【交付決定・発注】(採択後)
o 事務局から「交付決定通知」が届いて、初めて正式な発注を行います。決定前の発注・支払いは一切補助対象にならないため、ここが最大の注意点です。
【事業実施・実績報告】(最大12ヶ月以内)
o 設備の導入・工事を行い、代金を支払います。完了後、領収書や証憑書類をまとめて事務局に「実績報告」を提出します。
【確定・入金】
o 事務局の確定検査を経て、最終的な補助金額が確定し、口座に入金されます。
宿泊事業者のための「最短スケジュール」
一般型は公募期間が決まっていますが、準備には最低でも1〜2ヶ月は必要です。
- 1ヶ月目: 現場の課題(清掃・フロント・厨房)を洗い出し、ベンダーに見積依頼(相見積もりが原則必要です)。
- 2ヶ月目: 賃上げ計画の表明(従業員への周知)と、事業計画書の書き込み。
- 申請: 電子申請完了
最後に マリントピアグループからのメッセージ
私たちマリントピアリゾートグループは、自社で多くの宿泊施設を運営し、累計20億円を超える補助金採択・交付の実績を積み上げてきました。
「一般型」のような最大1億円の大規模補助金は、単なる「書類仕事」ではなく、「経営戦略の再構築」そのものです。テクノロジーを味方につけて、スタッフがよりクリエイティブな接客に集中できる環境を共に作り上げましょう。
この記事を通じて、宿泊事業者の皆様が「当社で、何ができるのか」を明確にイメージできるようになれば幸いです。
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