この記事は、中小企業・小規模事業者が「生産性向上」と「持続的な賃上げ」を実現するための強力な支援策である「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(通称:ものづくり補助金)」の第23次公募(2026年5月8日締切)の内容を理解できるように整理しました。
この記事の目次
ものづくり補助金の目的とスケジュール
ものづくり補助金が目指すもの
日本の中小企業を取り巻く環境は、物価高騰や深刻な人手不足など、かつてない転換期にあります。国が予算を投じて、本補助金を継続する背景には、以下の3つの狙いがあります。
- 生産性向上: 最新設備の導入により、従来の業務プロセスを抜本的に効率化すること。
- 革新的な開発: 自社の技術を活かし、他社にはない「新製品」や「新サービス」を創出すること。
- 持続的な賃上げ: 成長の果実を従業員へ還元し、地域経済の好循環を生み出すこと。
単なる「機械の買い替え」ではなく、将来の成長に向けた「攻めの投資」を支援するのがこの制度の本質です。
第23次申請スケジュール
本補助金は審査制であり、期限を過ぎると受け付けられません。
- 公募開始: 2026年2月6日
- 申請受付: 2026年4月3日 17:00〜
- 締切: 2026年5月8日 17:00(厳守)
本記事を読むことで、自社が対象になるかの「判定」、申請に必要な「準備」、そして採択後の「リスク管理」まで把握できます。制度の全体像を把握したところで、次は具体的な「補助金」の話、すなわち申請枠と補助金額について見ていきましょう。
申請枠と補助上限・補助率
第23次公募では、事業の目的に応じて「製品・サービス高付加価値化枠」と「グローバル枠」の2つが用意されています。
2つの申請枠
項目 | 製品・サービス高付加価値化枠 | グローバル枠 |
概要 | 革新的な新製品・サービス開発のための設備投資 | 海外展開(輸出・投資等)を通じた国内生産性向上 |
補助上限(1-5人) | 750万円 | 3,000万円 |
補助上限(6-20人) | 1,000万円 | 3,000万円 |
補助上限(21-50人) | 1,500万円 | 3,000万円 |
補助上限(51人以上) | 2,500万円 | 3,000万円 |
補助率(中小企業) | 1/2 | 1/2 |
補助率(小規模/再生) | 2/3 | 2/3 |
補助下限額 | 100万円 | 100万円 |
「グローバル枠」の4類型
海外市場へ出る企業にとって、最大3,000万円の支援は大きな武器となります。グローバル枠を申請するには、以下のいずれかに該当する必要があります。
- 海外直接投資: 海外支店や子会社での事業展開。
- 海外市場開拓(輸出): 自社製品・サービスの海外展開やブランディング。
- インバウンド対応: 訪日外国人向けの製品・サービス開発。
- 海外企業共同: 外国法人との共同研究・開発。
「特例措置」のメリット
次の要件を満たすことで、さらなる支援の強化が受けられます。
- 大幅な賃上げ特例: 賃上げ目標をさらに引き上げることで、補助上限が最大1,000万円上乗せされます。
- 最低賃金引上げ特例: 所定の低賃金水準の事業者が賃上げを行う場合、補助率が2/3に引き上がります。
御社が該当する枠が決まったら、次は「申請資格(基本要件)」を満たしているか確認しましょう。
申請対象と「3つの基本要件」
中小企業の定義
業種 | 資本金 | または | 従業員数(常時使用) |
製造・建設・運輸・旅行等 | 3億円以下 | ― | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | ― | 100人以下 |
ソフトウェア・情報処理 | 3億円以下 | ― | 300人以下 |
旅館業(ホテル等) | 5,000万円以下 | ― | 200人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | ― | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | ― | 50人以下 |
3つの基本要件(必達目標)
採択後、3〜5年の事業計画期間において以下の数値を達成する計画を立て、全従業員に表明する必要があります。
- 付加価値額の年平均成長率(CAGR) 3.0%以上
- 付加価値額 = 営業利益 + 人件費 + 減価償却費。
- 給与支給総額の年平均成長率 3.5%以上
- 役員報酬や退職金は含みません。全従業員への表明が必須です。
- 事業所内最低賃金 +30円以上
- 地域別最低賃金より「+30円以上」を維持。
※CAGR:複利計算による年平均成長率のこと。
※複数の拠点がある場合、補助事業の主たる実施場所の最低賃金が基準となります。
従業員数21名以上の追加義務
応募時点で「一般事業主行動計画」を策定し、厚労省の「両立支援のひろば」で公表していることが必須です。公表には2週間程度かかるため、早めの準備が必要です。
次は「何にお金が使えるのか」という経費のルールを確認します。
補助対象経費
ものづくり補助金には、返還リスクを避けるための厳格な経費ルールが存在します。
必須要件:50万円(税抜き)以上の設備
本補助金では、「単価50万円(税抜き)以上の機械装置・システム構築費」の導入が必須です。
- 注意点: 補助金の下限額が100万円であるため、補助率1/2の場合は「総額200万円以上」、2/3の場合は「総額150万円以上」の投資計画でなければ、実質的に申請できません。
経費内訳と上限
- 主要経費: 機械装置・システム構築費(投資の必須項目)
- 技術導入費、専門家経費、クラウド利用費、外注費、原材料費、知的財産権等関連経費の合計額は、高付加価値化枠で500万円、グローバル枠で1,000万円(いずれも税抜き)が上限です。
注意すべき3つのNG
- 事前着手NG: 「交付決定」が出る前の発注・契約・支払いは一切補助対象外です。
- 汎用品NG: PC、タブレット、スマートフォン、車両などの汎用的なものは原則NGです。
- 現金払いNG: 原則として銀行振込のみ認められます。クレジットカードや現金払いは、事前に事務局へ相談が必要な例外項目です。
次に最大の難関である「審査」の対策に移ります。
審査のポイント
採択率は、事業計画書の完成度と、その後の口頭審査での受け答えに左右されます。最近の採択率をみると33%前後で推移している狭き門です。
書面審査の4大項目
外部有識者が以下の視点で評価します。
- 経営力: 内部・外部環境を分析し、事業戦略に本事業が組み込まれているか。
- 事業性: 顧客ターゲットが明確で、競合優位性があるか。
- 実現可能性: 財務状況や社内体制、資金調達の裏付けがあるか。
- 政策面: 地域経済への波及効果やイノベーション牽引が期待できるか。
口頭審査
口頭審査
書類審査を通過した一定の事業者(全事業者ではない)を対象に、オンライン(Zoom等)で実施されます。
- 審査者: 法人代表者自身(1名)。コンサルタント等の同席は厳禁です。
- 内容: 事業計画の適格性や遂行能力について30分程度の質疑応答。
- 準備物: 顔写真付き身分証。
口頭審査の内容について、こちらの記事にまとめています
「新事業進出補助金」口頭審査のリアル
審査を通過して採択された後も、油断は禁物です。守らなければならない義務とリスクについて説明します。
補助金返還リスク
「採択=お金がもらえる」ではありません。ルール違反は補助金の返還に繋がります。
採択取消しの典型例
- 主体性の欠如: GビズIDを他者に貸与して申請させたり、他社の計画書を流用したりする行為。
- 二重受給: 他の国の補助金と同一経費で申請すること(他補助金との同時申請は可能ですが、両方採択された場合は即座にどちらか一方を選択し、他方を辞退する必要があります)。
補助金返還の要件
- 給与支給総額目標の未達: 計画期間終了後に未達成率に応じた返還義務が生じます。成長率がゼロまたはマイナスの場合は全額返還です。
- 事業所内最低賃金の未達: 毎年チェックされ、未達の年数に応じて返還が生じます。
- 再生事業者の特例: 「再生事業者」に該当する場合、目標未達による返還義務は免除されます。
- 目的外使用: 導入設備を勝手に売却・廃棄したり、補助事業以外へ転用したりした場合、残存簿価相当額を納付する必要があります。
最後に、申請までの具体的なステップとタイムラインを確認しましょう。
まとめとアクションプラン
成功への第一歩は、余裕を持ったスケジュール管理から始まります。
- GビズIDプライムアカウントの取得: 発行に少なくとも2-3週間を要します。未取得の場合は最優先で動いてください。
- 事業計画の策定: 「革新性」と「数値根拠」のあるストーリーを構築します。
- 概算見積:申請自体に詳細な見積書は不要ですが、計画策定にあたり概算の投資金額は把握しておきますおう。
- 電子申請: 2026年5月8日 17:00の締切に遅れないよう完了させてください。
- 採択後の交付申請(重要): 採択発表後、原則2か月以内に「交付申請」を行う必要があります。交付申請には2社以上の詳細な見積書が必要です。遅れると採択取消しのリスクがあります。
ものづくり補助金は「単なる機械の導入」ではなく、それによって実現する「未来の事業成長」を支援するものです。この投資によってどのように市場を変え、従業員の賃上げに繋げるのかを計画書に示してください。



